かぐわしきは 君の…
  〜香りと温みと、低められた声と。

    7 ( 幸いもすぎれば…? )



朝っぱらから様々に翻弄されもしたけれど、
こういうすったもんだも、
地上という 彼らにとっての“非日常”にいればこそ。
何かしら“思わぬ体験”がしたくて
降臨(バカンス)している自分たち、のようなものなのだしと。

 「♪♪♪〜♪」

イエスが布団上げにパタパタしている気配をお背(おせな)で聞きつつ、
こちらも慣れた手際で朝食の支度に取り掛かる。
ハクサイを、パプリカをナスを切り分け、
飯台へ空けた炊き立てご飯は、さくさくとシャモジでほぐしてから、
少しだけ立て塩をしての、手慣れた手際でわしわしとおむすびへ。
みそを塗ってオーブントースターで軽く炙りつつ、
お味噌汁と野菜炒めとを同時進行で仕上げた頃には、
もうすっかりと落ち着いていたブッダ様。

 「さあどうぞ。」
 「わあ、美味しそうだ♪」

どれほど蒸し暑くとも、まだまだ健康な“聖年”男子のお二人ゆえに。
すっかり目が覚めていたこともあってか、
大きめの焼きおむすびにお味噌汁、
炒めたての香ばしさも食欲をそそる、
ナスとパプリカの濃味炒めというラインナップを
惚れ惚れする勢いで制覇してしまい。
食器に引き続き、顔を洗って歯を磨きつつ、
いつもの会話へなだれ込む。

 今日は何しよっか。
 そうだなぁ、植物園に行かないか?
 何かあるの?
 ハス池の蓮の花が見ごろだって。
 わあ、それは是非とも見なくっちゃvv

ネットで得た情報らしく、
ちょっと待ってねと、
携帯へそのサイトのアドレスを転送していたイエスなのは、

 「ほら、入場券の割り引きクーポンと園内の地図。」
 「へえ〜。ネットだとそういう特典があるんだね。」

どちらかといや“割引”というところへ食いついたブッダらしかったが、
イエスにしてみりゃ、
先進の機器を卒なく使いこなす頼もしさを褒められたようで。
しっかり者さんに讃えられたのが嬉しかったか、
任せなさいという笑みになるところが…ちょっとかわいい。
午前中に出れば涼しいだろうと、
食事中に回しておいた洗濯機から、
シャツやらタオルはイエスが抱えてって、
犬走りと呼ばれる
アパート回りのコンクリ打ちっぱなしのポーチへ設けられた
共同の干し場へ干し出し。
残りの下着や靴下といった小物は
ブッダが小物干しに下げて窓辺に吊り下げて、さて。
陽は昇ってしまっているものの、まだ風は十分涼しい中、
スズメやオナガのさえずりも長閑な住宅街から、
大通り沿いまで出てのバスに乗り、
最寄りだという停留所から歩くこと少しほど。
いい感じに年を重ねた老夫婦や、
趣味のそれだろ、
デジカメやスケッチブックを小わきに持参なさった人々が、
同じ目的地を目指しておいでなのと合流しつつ。
着いた頃には 陽もややくっきりと自己主張を始めた中ながら、
こんな町中にポカリと現れたオアシスみたいな、
それは瑞々しい空間へと到着する彼らであり。
ちょっとしたマートビルほどはあろう、全面ガラス張りの温室を中心に、
亜熱帯の仲間から高原植物まで、結構な品揃えを誇る植物園は、
今は丁度、イエスがネットで見つけた通り、
“涼しい蓮池で水辺の植物を鑑賞しよう”をイチ推ししているらしく。
清かな青空を縁取るようにし、
頭上で青々とした葉を揺らすはナツメヤシ。
他にも、シュロやソテツ、アレカヤシが居並ぶ南国調の遊歩道を進み、
いやに密に植えられたキョウチクトウの生け垣を抜ければ、
不意に広々とした空間が眼前へ広がる。

 「わあ…。」

心なしか空気もひんやりと爽やかなのは、
周縁に配された樹木からのフィトンチッドもあるけれど、
それよりもっと具体的な代物、
広場の主役として、
きれいな水をたたえた大きな泉水が幾つも設けられているからで。

 「おお。」
 「これは…。」

初夏という季節柄、
木々の梢を彩る葉の色も、そろそろ深みを増す頃合いだというに。
心持ちの段差を設けた3つほどある泉水に広がる緑は、
それは柔らかくて優しい色合い。
水のおもてから伸びる茎も、それに支えられた楕円の葉も、
輪郭が朝の空気に滲み出しているかのように淡い緑で。

 「何て飾り気はないのだけれどねぇ。」
 「ああ。」

種類や育ちようによっては、
さすがに多少は濃さの差異もあるようだが、
それでも深いか浅いかという違いだけで、
極端に鮮やかな 明けの緑だ深紅だという部分はなく。
白と黒と灰色という、モノクロームな映像として収めたら、
めりはりのない同じくらいの彩度ゆえ、
葉も茎も花も曖昧になること請け合いの姿だというに。
優美な佳人の立ち姿を彷彿とさせる、
すらりとやさしいその佇まいから、
天の国、極楽浄土にも相応しいとされたのだろうと容易に思わせる、
それはそれは品のいい色合いと姿をしておいで。
時折吹く風が水面にちりめんのようなさざ波を立てる中、

 「あ、ほら見て、ブッダ。」
 「…うん。」

少し濃色の葉や淡色の葉の重なる中、
そちらもまた、羽二重もちでくるんだ さくら餡を思わせる、
やさしい緋を滲ませた蓮の花が、
水のおもてから高々と離れた宙空にて、富貴なお顔をほころばせており。
水面下の足元は泥だというに、そんな濁りや穢れなぞ想像さえさせない、
仄かな光さえおびて見える無垢な淡緋の花弁たちが、
幾重にもかさなっての健やかに大きく開いている様は、
成程、その上へ如来が座して相応しい花といえ。

 「何て言うか、おごそかだねぇ。」
 「うん。」
 「縁までのじんわりとした色味の滲みようが、何とも言えないよね。」
 「うん…。」

感に堪えるとはこのことか、
清楚で、なのに風格さえ感じられる高貴な花に魅せられたブッダは、
イエスの判りやすい素直な描写へ、ただただ頷くしかないらしい。

 そして、

螺髪といういかにもな頭をしたブッダの立ち姿が、
そんな蓮の群れ越しに望めるところが、何とも神々しく見えるのか。
対岸にあたる位置から眺めていらしたお年寄りの何人か、
言い合わせることもないままに、
揃って“ありがたや、ありがたや”と手を合わせていたけれど。
まま、それはお約束ということで さておいて。(苦笑)

 「あ、向こうのは白い花だよ。」
 「ああ、そうみたいだね。」

イエスもまた、樹木や草花への感受性は繊細なようで。
だって父さんが作った“世界”なんだしなんて、
いやまあ それはそうなんだろうけど。
風に髪を遊ばれては涼しいと笑い、
木の間越しに見えた空の青さに一瞬見ほれ、
ふよふよと懸命に、まろぶようなつたない飛び方で舞う蝶に視線を奪われ、と。
こういうところへ来るといつも、
周囲のあれやこれやが愛おしくってたまらないという顔になる。

 “ホント、天然だよねぇ。”

昨日の、肩を貸してくれたことへの言い訳も、
今朝の騒動のおまけ、ブッダの女体変化へ慌てふためいた顛末も、
決して巧みな文言を持ち出した訳じゃあないってのに、
気がつけば…随分な焦燥とか気落ちから
そろそろと あるいはそぉれっと、
たやすく引き上げられてしまっているブッダであり。
頑迷で一本気なこの自分が、
しかも自身への迷いや動揺、不甲斐なさから消沈していたというのにね。
そんなことへも手を差し伸べての、
さあおいでと引き上げてくれるイエスは やはり大したものだと。
今更ながらに、神の和子様の素養に惚れ直しておれば、

 「? なぁに?」
 「え…。//////」

あんまり注視していたからか、
そんなこちらへ気づいて“?”と目線を振り向けて来る彼で。

 「あ…いや、別に何でも…。///////」

用があって見てたわけじゃないよと、しどもど言いのければ、
ふ〜んそっかとあっさり納得してしまう。
そのまま再び池を見やって、
ほらあっちにも大きいのがと指さして見せるイエスで。

 「……。」

だというに、あっちと示されたほうじゃなく、
こちらからは視線を外した格好、なればこそ晒された横顔を、
ブッダとしては つい見やってしまう。
あ、案外と稜線は細いんだ。
不思議だなぁ。
頬も薄いし、目許だって切れ長で、唇も肉薄で、
おまけに髭もあるんだから、
トータルすると十分精悍なお顔のはずなのに。
髪もぼさぼさと伸ばしてて、
骨張った手とかといい、男臭さも満点のはずなのに。
何でああも可愛い笑い方になるんだろう。

 「ぶっだ? …っ。」

 「    え?」

返事がないのへか、再びこちらを向いたイエスが、だが、
弾かれたように やや険しい顔となり、それは俊敏な動きを見せる。
……と言っても、
腰高な塀へと飛び掛かり、
その上で伸身ぶん回しという鮮やかな横っ跳びを披露し、
そりゃあ見事に飛び越えたり…したのじゃあなくて。

  ただ、その手を伸ばして来ただけだったのだが。

それでも、ややもすると呆けていた格好のブッダには唐突なこと。
どうやら向背からやって来た学生たちがいて、
蓮池はまじまじと鑑賞する気もないらしく、
次は温室だと急いでいた数人ほど、
そんな彼らが…柄をまんま二の腕へ通して肩に掛けていた
大きめのスポーツバッグのはみ出しを、
ちいとも気にしない身ごなしだったため。
ぶつかったら池の側へよろけるぞというのを恐れてのこと、
その進路から避けさせるべく、

 ぐい、と

腕を掴んだそのまま、
ブッダを庇うように 自分の方へ引き寄せたイエスであり。

 「わっ。」
 「ご、ごめん。」

痛かった? ううん大丈夫という彼らのやり取りの向こうでは。
他のご婦人らへも被害が及んだのだろう、
こら、危ないだろうがと、
当事者たちが矍鑠としたご老人に叱られていて。
それへ“うへぇ”と閉口し、
もっと小さい子供のような至らなさにて、
慌てて逃げ出していたようであったけれど。

 「どこかぶつけた? あ、強く引っ張り過ぎたかな。」
 「ううん、平気だよ。」

何でそうまで訊くのかの方が妙なことと、思うと同時、

 「…………あ、ごめん。////////」

そうかと理解に至ったのは、
どういう咄嗟でそんな反応が出るものか、
引っ張り込まれかけていた先のイエスの胸板を、
交差させた両腕がかりで押し返しかけていたブッダだったから。
突き飛ばそうというほど力の籠もったものではなかったが、
二人の狭間にてのこの態度、
寄るな触るなという拒絶に見えなくもない抵抗であり。

 「いやあの、これは、その…。////////」
 「うん、判ってる。」

気にしないでと、むしろイエスのほうから苦笑を見せる。
感情の沸点が低すぎるイエスは、
そんな弾けやすさに任せて ついつい飛びついたりハグしたり、
大仰なまでのスキンシップを取ってしまうため、
こんなに人目がある場ではブッダも困ったのだろと、
そこはさすがに聞き分けもいい。ただ、

 むしろ

 “判ってないってば…。//////”

困惑したままなのはブッダのほうで。
大丈夫だと言ったくせに、じゃあと彼の手が離れるのが寂しい。
しゃにむに言い訳を重ねたくなったのも、
咄嗟に押し返す素振りが出たこと、
他でもないイエスから誤解されたくなかったからだ。

 “周囲への照れからだなんて…。”

あんな咄嗟にそんな理性的な理由が出るほど、
いつもいつも沈着冷静じゃあない。
…いや、悟った人が威張って言うことじゃあないけれど。

 じゃあなくて。

引き寄せられたことでいきなり触れたシャツ越しの感触、
結構 堅いめの胸元とか、肌の温みを意識した途端、
どういうスイッチが入ったものか、かぁっと頬が熱くなったからに他ならぬ。

 あれあれ? 変だな、何でこんな?//////
 わぁいとしがみつかれるのなんて いつものことだのに、あれれ?と。

そんな混乱に意識が揉みくちゃにされかかったため、
咄嗟に防御が働いたらしかったまでのこと。
しかも、こここそが問題かも知れないのが、

 困ったという事態にしては、
 隠しようなくお顔がほころんでしまったものだから。

やばいやばい、近いからか?イエスが近いからか?これ、
しまったなぁ、そういや女体変化したすぐ後だしなぁ。
こぉんな漢らしい、(えっ?)
しかも好いたらしい相手がハグなんかして来たもんだから、
修整利いてない部分が反応しているのかなぁ、これ。///////


  ちょおっと落ち着こうか、みんな。
  いやさ、ブッダ様。(笑)


きっとイエス様だとて、
そうまで深くは考えてないんじゃあなかろうか。
だって、ではあなたの側からも、
積極的に腕を回してしがみついていたならば。
周囲もそうだが、
神の和子さま自身も“何だ どした”と逆に案じてしまわれたかも知れぬ。
いやいや、近いってこれ…////// と、
腕でついつい制御というか、カバーしてしまったなんてのは、
それほど奇異な反射じゃない

 …っていうのに。

女体変化の後遺症なら、これもやっぱり自業自得だ。
困ったなぁ、イエスが誤解しないかなぁと。
触るなって拒絶されたんじゃあないかって、傷ついてないかって。
そんな想いが小さな棘になって、胸のどこかでひりひりと収まらぬ。

 「…っ。」

そうだ、おいでを待つことなくの こっちから。
そうだよ、こっちから寄ってこうと、顔を上げれば、
携帯の写メだけでは物足りないか、
デジカメも取り出しての えとえっとと、
やや覚束ない手つきながらも蓮の花を撮っていたイエスが、
不意にブッダのほうへと振り向いて、

 「ほら、ブッダも。」
 「え?」

笑ってという意味だろう、
お顔に小ぶりなカメラを張り付けたまま、
口元を朗らかにほころばせる。
唇の上にも顎にもひげをとどめている彼は、
顔立ちだって彫り深いというに、
どうしてだろうか笑い顔が何とも無邪気で。
今も通りすがりのお人らが、
まあまあと楽しそうに釣られて笑ってしまわれたほど。
勿論のこと、
ブッダにしても癒され絆されてしまう相手だもの、
目許たわめてにこりと微笑めば、

 「………え?」
 「わ、凄い凄い。」

彼らの周囲から
さわさわさわっという静かさながらも、
何かへ気づいた人々の声が一斉に上がる。

 「え? あ、凄い、ブッダ後ろ見てっ。」
 「どうしたの? ………っ?!」

大きいのが3つほどある人造池のうちの1つ。
緋色の花がつく蓮が集められていた最初の池の中で、
まだ頑なな蕾だったものから、少し萎えかけていたものまで、
蓮の花が次々に、ぽぽぽぽぽんっと
意気軒高な様で咲き乱れているではないか。

 「さすがに咲くところは、
  朝早くに来ないと見られないと思っていたのにねぇ。」
 「本当に“ぽんっ”て音がするんだね。」
 「ありがたや、ありがたや。」

いやまあ、そういうシーズンだから、
言ってみりゃ“満開状態”になったっておかしかないけれど。

 “…何? このタイミング。”

周囲の盛り上がりと裏腹、
微妙ながら…疚しい気分になりかかったのが約2名ほどいて。
だって“心当たり”がなくもない。

 《 わたしがこうまで近くにいたからかなぁ。》

しかもしかも ゆかりの深い蓮の花だしねぇと、
お顔をやや引きつらせたブッダ様だったのへ、

 《 でもでも、それでいちいち草木が最盛期になるっていうなら、
   ブッダ、君は明日っから
   八百菱さんの前やトモエ生花店さんの前を通れなくなるよ?》

何でだろうか、
今日はイエスのツッコミが妙に鋭く冴えているような。
…いやいや いやいや、
こんなときに漫才のネタ合わせをしていてどうするか。

 《 とりあえず、》
 《 うん。》

いかにも逃げ出すように駆け出してはいけないが、
さりとて、このまま此処に居たんじゃあ、
池じゅうの蓮が全部咲き切ってしまいかねない。
うわぁすごいねぇ、うん そうだねぇと、
ちょっと白々しかったが、そこんところは平にご容赦。
本当に驚いてはいるのだから、挙動不審だとまでは思われなかろうと。
何度も何度も池を振り返りつつ、
名残り惜しいというのを、後ろ髪引かれつつというのを装って、
その場からドキドキしもって離れることにした、最聖人の二人であった。




     ◇◇◇


何でもかんでも
自分たちの引き起こした奇跡とは限らないだろう
と言うイエスだが。
でもじゃあ、あの間の良さは何だったのかと、
ブッダとしてはそこが気になるようで。

 「間の良さ?」
 「うん。
  丁度わたしたちが居合わせたっていう“間の良さ”だよ。」

イエスが言うように、不思議や奇跡的な現象は
今の今だって 世界中のあちこちで起きていることだろう。
ただ、

 「そういうことを引き起こしやすい私たちが
  居合わせたからにはねぇ。」

全くの無関係でもないかも知れないと、表情を曇らせてしまうブッダであり。
それこそそんな様相となった彼の気分を示してか、
昨日の曇天から一転しての、いいお天気だったはずが、
ガラスの天井越しに見上げた空にも、うっすらと雲が出て来つつあったりし。

 「考え過ぎだって。
  そりゃあまあ、楽しいなって はしゃいではいたけどさ。」

そこは正直に口をすべらせたイエスであり。

 「…楽しかった?」
 「うんっ。」

 蓮は綺麗だったし、ブッダも喜んでくれたし。
 ……はい?//////
 いや、何でもないない。//////

うまくはぐらかせないものか、
今のナシっとか、相変わらずに幼子のような言いようをする。
そんな態度にこそ、苦笑が洩れてのこと、
ブッダの胸へとわだかまる“納得行きません”というもやもやも、
少しは濃度を薄めたみたいで。

 「まあ、あのまま異常繁殖とかいう事態へまで至った訳じゃないんだし?」
 「そうそう…って。ブッダ、表現がおかしいそれ。」

そんな過激なこと言って、あ・もしかしてSFとか構想中?
よしてくれよね、滅多なこと言うと梵天が現れかねないなんて。
それこそ彼らにしか通じない“天界ジョーク”が出たところで(んん?)

 「落ち着いた? だったら温室の方も見て行かない?」

冷房の効いた館内の喫茶スペースで、
お薦めだという
パインとマンゴーのミックスジュースを堪能していた彼らであり。
ガラス張りの大窓に囲まれた格好の店内なのは、
温室の一角に位置しているからだ。
開放的なフロアのそこかしこにも観葉植物が並べられていて、
どこか高級ホテルの、
アトリウムとかいう形式を謳ったラウンジのごとくで。
それは居心地のいいカフェだということも、
気持ちを落ち着かせるのには効果があったようだしと。
気難しいお顔がやっとほどけた相棒なのへ、にっこり微笑んだヨシュア様。

 「いいね。今時分だと逆に冷房が効かせてあるんじゃない?」
 「うん。そうみたいvv」

さすがに植物自体へ当てるような空調ではなかろうが、
暑さに弱いのを保護していたり、
何より見学者たちのためという格好で、
涼しい気温設定にしてあるのは間違いないと。
こうなって来ると何が目的だったやらだが、
入館料の元は取らねばと、ついつい思ってしまっても無理はなく。
十分休めたしと席を立ち、
じゃあこれ、支払って来るからと、
小さなバインダーに挟まれたレシートを手に
レジへ向かったイエスを見送っていたものの。

 “…あ、イエスの冠にまた。”

またもや耳のやや後ろという位置に、
白いばらが小さく咲いている。
わたしが落ち着いたのでと安堵した彼なのだろか、
だったらちょっと嬉しいかなと、

 「………。///////」

口元がほころびかかったのに気づかぬまま、
テーブル席の一角、
外との仕切りかベンジャミナの鉢があったので、
まだ若木のすんなりした幹へ、何の気なしに触れておれば、


  「   え?」


この木の花がこういうのかどうかまでは知らないが、
涼しげな見目の葉が茂る中へ、ふわっと幾つも蕾が実りだし、
あわわと手を放したが時すでに遅く、
可憐なお花が幾つも、音もなく静かに、咲き乱れ始めてしまったのであった。











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  *起承転結の“転”だとあって、
   お約束三昧でしたね、ああ楽しかったvv
   いよいよもっと楽しい、後半部です。
   それにしても私は、
   シッダールタ先生で どんだけ少女漫画させたいのでしょうか。

   「困りますね、先生に勝手に。」

   「あなたこそ
    マネージャーみたいな口利きはやめてください。//////」
 

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